初恋フォルティッシモ

…あの二人の様子からして、もしかしから付き合っているのは本当なのかもしれない。

断られてもいい、なんて思っていたはずが、いざ目の前の光景を目にすると心に傷がつく。

…あの合宿で俺が黙って麻妃先輩の告白をちゃんと聞いていたら、今あそこにいるのは青田じゃなくて俺…だったのかな。


サックスお願いね。頑張ってね。

はい、任せて下さい先輩。なんて…。


しかし、そんなことを思いながら二人を見ていると…



「…!」



ふいに突然、麻妃先輩が何を思ったのか、周りをキョロキョロと見渡して、俺は咄嗟に柱に隠れた。

…っつか、謝って告白するはずが、なんで隠れてんだよ俺。

俺がそう思って情けない自分にため息を吐いたら、その時後ろから麻妃先輩と青田の会話が聞こえてきた。



「…どうかしたんすか?」

「んー…ううん、何でもない。気のせいだったみたい」

「?」

「青田くん、サックス頑張ってね。たまに演奏会とかも見に行くから」



…つまんねぇ、なぁ…。


俺はその後も麻妃先輩が一人になるタイミングを見ていたけど、結局先輩は友達と合流して学校を後にしてしまった。

俺が最後に麻妃先輩を見たのは、友達と楽しそうに笑い合う横顔。


今思えば、周りなんて気にしないで素直になっていれば良かったんだ。

結局、俺にはそれ以上の勇気がなくて、その後独り虚しく教室に戻った…。
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