初恋フォルティッシモ
「麻妃先輩に会ったら、昔のことを謝ろう」とか…ずっと思っていたそんな決心よりも先に、懐かしいドキドキが邪魔をする。
あの頃よりも伸びた先輩の髪。綺麗な黒髪。細い目。ほとんど変わらない顔。………嘘じゃないんだ。
前にホテルで見かけたショックも一時的に忘れて、俺が真っ直ぐに麻妃先輩と目を合わせられないでいると、麻妃先輩が言った。
「三島くん、会社この辺なの?」
「は、ハイ。この辺っす」
「へぇ。でも、見かけるのは初めてだなぁ」
「……今日から初日っすから」
「えぇー!そうなんだ!」
頑張ってね。と、麻妃先輩が言う。
麻妃先輩が注文したのは、カフェオレ。
先輩は、あの頃よりも大人になってて。
こうやって話すのは、いつぶりだろう。
いや、何より……麻妃先輩がまさか俺とまたこうやって話をしてくれるとは思ってもみなかったから。
「先輩も、会社この辺なんすか?」
それでも、緊張する気持ちを抑えて俺がそう問いかけると、先輩は「うん」と頷いてある高層ビルを指差す。
「あれ。あれが、あたしの会社」
「…!?」
「今日から新人が来るって。あたしが教育係任されてるんだー。…あ、三島くんも今日だよね。もしかして……いや、まさかねー」
麻妃先輩はふいにそんなことを言うと、屈託のない笑顔で「ははは」と笑う。
一方の俺は、額に一滴の汗がツーっと流れる。
「……や、先輩」
「?」
「俺…俺も、そこの会社です」