初恋フォルティッシモ
…………
「珍しいな?君から連絡をくれるとは」
「…たまたま、時間が空いたので」
他に誰もいないホテルの部屋。
同窓会には結局行く気がなくて断った数日後、あたしは“ある人物”と逢っていた。
その人物とは、経理部の「渡辺部長」。
もちろん、この二人で逢っていることは周りには絶対ナイショだ。
だって…
「まぁそう距離を置くことはない。家内には出張と言ってある」
「…けど、」
「おいで。君も“忘れたい”んだろう?」
「…、」
渡辺部長は、ちゃんと結婚している既婚者。
奥さんとは凄く仲が良いと聞いた。
不倫。
端から見たらそう見えるのかもしれない。
けど、あたし達のこの関係は恋じゃない。
傷の舐め合い。
あたし達はそれぞれに心に傷や大きな隙間があって、それをお互いにこうやって定期的に癒している。
あたしが“忘れたい”のは、「大事な人の存在」。
瞼の裏に三島くんを浮かべていら、ふいにキスが降ってきた。
「…っ」
キスのあとゆっくり目を開けたら、そこには三島くんがいた。…気がした。
けど、違う。彼がここにいるわけない。
そのシルエットは、すぐに渡辺部長に戻る。
…さっき、ホテルの前で。
あたしが知らないうちに、三島くんにあたしの姿を目撃されていたとは知らずに。