初恋フォルティッシモ

そう言われて、周りにからかわれるアサヒはその言葉を必死に否定する。

そんな勝手な言葉に、一方の俺も思わずため息を一つ。


……早く帰りてぇ。


そう思いながら、しばらく座ったままぼーっとしていたら、そのうち視聴覚室の入口から女の先生が現れた。



「お待たせー」



…音楽の、木谷先生。

年齢は、30代前半くらいの綺麗な女の先生だ。


先生は新入生の姿を見ると、少しだけ目を見開いて言った。



「…おー、いっぱい来てるー」



…今のこの視聴覚室には、新入生の席は30人くらいは座れるようになっている。

その席は、俺がここに座っているから完全に満席だ。

さっき、あのアサヒとさえ鉢合わせにならなかったら、今頃は満席じゃなかっただろうに。


俺がそう思いながら黙って見ていると…先生が指揮者の台に立って、先生の指示で皆が一斉に楽器を構えた。

最初は見た感じ、普通の音出し。


その最中も、俺の視線はもちろんトランペットに向けられていて。

…やっぱり、カッコイイな。


そう思いながら、見ていると…そのうちにやっと、演奏会が始まった。

< 22 / 278 >

この作品をシェア

pagetop