初恋フォルティッシモ
その瞬間、今までに聞いたことのないような低い声で、勇佑にそう言われた。
その声に、ユリナは思わず言葉を失ってしまう。
…せっかく来たけど、勇佑と話すのはもう無理だ。
ユリナは渋々ベンチから立ち上がると、自分のマンションに帰った。
……フリをした。
でも実際は、ここで簡単に引き下がるようなユリナじゃない。
ユリナが帰った素振りを見せた直後、知らない女が勇佑に近づいた。
その光景にびっくりして集中していると、やがて二人は会社から離れていく。
何あれ!!
ムカついて尾行することにしたユリナは、その前に同じ会社から出てきた他のサラリーマンに声をかけた。
「あの、すみません」
「?」
「今、男の人と二人で歩いてった女の人、名前何ですか?」
「え、あの子?藤本麻妃だよ」
「!」
…藤本、麻妃……“麻妃”…。
ユリナはその言葉を聞くと、悔しくて握りこぶしをつくる。
勇佑…
何してるかわからない相手どころか、同じ会社にいるんじゃない。
もしかして、再会したとか?
まさか。そんな偶然あり得ない。
勇佑を奪い返さなきゃ。
あたしはそう思うと、少し離れた位置から二人の後をつけた…。