初恋フォルティッシモ
二人の後をつけるのはいいけど、勇佑にバレたら終わりなのは百も承知だった。
だからそれなりの距離をとるけれど、二人の会話を聞きたいのに…距離があって聞こえない。
そのうちに二人はイタリアンレストランに入っていって、ユリナはその前で立ち尽くした。
「…!」
…ここ…前に勇佑と二人で来たレストランだ。
指輪を買ってもらったその夜に、二人で来た場所。
それなのに……。
「…っ」
まだ大切にはめたままの指輪が、視界の端にむなしく映る。
あの時は、まさか数週間後にこんなことが待っているなんて思いもしなかったな…。
ユリナはレストランには独りで入れなくて、ちょうど窓際に座った二人を窓越しにこっそり見張ることにした。
…相手の女は、大したことない。
別に可愛くないくせに、どうして勇佑と一緒にいるの。
だけどその思いは届かずに、勇佑はその女を前にして、ユリナが見たことのないような表情を見せていた…。
……………
そのあとは、レストランを出た二人のあとをまたつけて、二人は駅に入った。
どうやらお互いのマンションに泊まったりするような予定はないらしく、だけど、改札口で勇佑があの女を抱きしめている…。
邪魔してやりたかったけど頑張ってこらえたら、やがて二人は別れて、ユリナは今度はこっそり女の方の後をつけた。
…ホームに入って、すぐに電車が来て、あの女が乗った隣の車両に乗る。
その姿すらも少し離れた場所から睨んで、揺られること約30分。
ようやく目的の駅に到着したらしく、その女が降りるのを見ると、ユリナも同じ駅で降りた。
そろそろかな。
…けど、話しかけるのはまだ早い。
もう少し、周りに人がいなくなってからがいい。
そして、タイミングを見て、やがてその時がやってきた。
「あの、すみません」
「…?」
あたしはその女、“麻妃”に声をかけると、憎しみの心を押し殺して彼女に近づいた……。