初恋フォルティッシモ
「!」
その時。
突然、アサヒが演奏する楽器の音がピタリと止まった。
一瞬、終りか?って思ったけれど、違うらしい。
…アサヒの表情が、さっきの真剣な表情から、まるで「マズイ」とでも言っているような、そんな表情に変わる。
サーっと血の気が引いて、しかもそのうちにソロパートは終わったらしく、
失敗に終わってしまったらしいアサヒのそれは、その後無惨にも幕を閉じた。
…すると、さっきのトランペットのソロパートの時とは違う、躊躇うような…そんな拍手がポツポツと湧き起こる。
俺は普段なら拍手なんてしないし、さっきのトランペットの時もしなかったけど…その時だけは短い拍手をなんとなく送った。
…遠目から見ただけでもわかる、アサヒの落ち込んだような顔。
そしたらやがて演奏会も終わってしまい、大きな拍手の後に…新入生はそれぞれが席を立って帰ったり、吹奏楽部の仮入部に行こうとしている。
……さ、帰るか。
そして俺は独りそう思いながら、通学鞄を手に視聴覚室を出ようとすると…
ふいに少し離れた背中で、微かに話し声が聞こえた。
「大丈夫だよ、麻妃ちゃん」
「…?」
その声に、俺はなんとなく振り返る。
するとそこには、先輩の腕の中で悔し涙を流している、アサヒの姿があった…。