初恋フォルティッシモ

……泣いてんのか。アホらし。


だけど俺はその光景から目を背けると、再び視聴覚室を出ようとする。

一生懸命に何かをやったって、どーせ必ず報われるわけでもないのにバカらしい。


しかし、そう思っていると……



「あれ?仮入部、して行かないの?」

「?」



ふいに俺は、背後から誰かにそうやって声をかけられた。

その声に振り向くと、そこにいたのは吹奏楽部顧問の木谷先生。

そんな先生に、俺が「行かない」とだけ言うと、先生が不思議そうな顔をして言った。



「なんで?藤本から聞いたよ。あなた、トランペットに興味があるんでしょ?」

「…フジモト?」

「ああ。ほら、さっきアイドルメドレーでサックスのソロ吹いてたコ」



木谷先生はそう言うと、今だ泣いているらしいアサヒを指差す。

藤本からあなたの名前は聞かなかったけど、顔と様子を見たらすぐにわかったよ、と。


あの女余計なことをっ…!


俺がそう思いながら舌打ちをしかけたら、そんなアサヒを見て先生が苦笑いを浮かべながら言った。



「…あーあ。やっぱり泣いてるわ…。急遽決まった代役のソロだし、別に気にすることないのに」

「…、」



そう言って、「初めての後輩に良いとこ見せたかったかな」と呟く。

そんな先生の呟きに、俺はまた黙って帰ろうとする。


…やっぱり、バカらしい。


しかしそう思っていたら…

< 25 / 278 >

この作品をシェア

pagetop