初恋フォルティッシモ
……泣いてんのか。アホらし。
だけど俺はその光景から目を背けると、再び視聴覚室を出ようとする。
一生懸命に何かをやったって、どーせ必ず報われるわけでもないのにバカらしい。
しかし、そう思っていると……
「あれ?仮入部、して行かないの?」
「?」
ふいに俺は、背後から誰かにそうやって声をかけられた。
その声に振り向くと、そこにいたのは吹奏楽部顧問の木谷先生。
そんな先生に、俺が「行かない」とだけ言うと、先生が不思議そうな顔をして言った。
「なんで?藤本から聞いたよ。あなた、トランペットに興味があるんでしょ?」
「…フジモト?」
「ああ。ほら、さっきアイドルメドレーでサックスのソロ吹いてたコ」
木谷先生はそう言うと、今だ泣いているらしいアサヒを指差す。
藤本からあなたの名前は聞かなかったけど、顔と様子を見たらすぐにわかったよ、と。
あの女余計なことをっ…!
俺がそう思いながら舌打ちをしかけたら、そんなアサヒを見て先生が苦笑いを浮かべながら言った。
「…あーあ。やっぱり泣いてるわ…。急遽決まった代役のソロだし、別に気にすることないのに」
「…、」
そう言って、「初めての後輩に良いとこ見せたかったかな」と呟く。
そんな先生の呟きに、俺はまた黙って帰ろうとする。
…やっぱり、バカらしい。
しかしそう思っていたら…