初恋フォルティッシモ
「何かに一生懸命になるのって、楽しいと思わない?」
「…?」
ふいに先生が、また俺を引き留めるようにそんな言葉を口にした。
…その声に、俺はふと歩く足を止める。
…“楽しい”…?
そして、後ろの木谷先生の方を向く。
すると先生は、言葉を続けて言った。
「あなたの顔に書いてあるよ。一生懸命になるのがバカらしいって。まぁ確かに、一生懸命努力をして何かを頑張っても、絶対にそれが報われる保証は無い。
でも、認められなくても、代わりに得られるものが絶対にあるからね。
例えば…仲間、とか。どんなに辛い経験をしても、それは絶対良い思い出に変わるから」
先生は俺の心を見抜いているようにそう言うと、ふいに俺の肩にぽん、と手を遣って最後に言う。
「…好きなんでしょ?トランペット」
「!」
「“音楽”は嘘を吐いたりしないから、一度覗いてみるといいよ、吹奏楽部が活動してる音楽室に」
先生はそう言うと、「楽しみにしてるよ」とやがて視聴覚室を後にした。
…その言葉に、俺は独りしばらくその場に立ち止まる。
音楽は、嘘を吐かない……か。