初恋フォルティッシモ
おまけ激短編集
【おまけ①】
ずっと、夢を見続けていた。
ずっとずっと、叶うことのない夢を。
もしも朝、目が覚めたら、とか。
もしも仕事から帰ったら、とか。
もしも俺が出掛けたら、とか。
そんな妄想ばかりを繰り返して、広げて、でもその度に「んなワケないか…」とため息を吐く毎日。
ちょっと前までは、それを繰り返していた。
けど、今は。
「ねぇ、何読んでんの?」
「ファッション雑誌」
いつも、すぐ手の届く距離にその想い人、麻妃がいて。
自分のモノになった途端に、隙あらば麻妃に両腕を回して引っ付いている俺。
…わかってる。自分でもどうかしてること。けど、どうしてもやってしまう。
「…こっち向いてよ」
「ちょっと待って。もうちょいで読み終わるから」
「…」
そして今日も俺は、後ろから麻妃のお腹に両腕を回して、べったり引っ付く。
…キモチイイ。
こういう状況を何度夢見ていたことか。
ただ、麻妃が他のことに夢中なのが残念だけど。
麻妃と付き合い始めて、約2ヶ月が経過した今。
もうあの頃の夢は現実になって、俺にあり得ないくらいのたくさんの幸せをくれる。
「…あ、そういえば」
「うん?」
するとその時、相変わらず麻妃に引っ付いたままの俺に、ふいに彼女が何かを思い出したように顔を上げて、俺に言った。
「明日ってみぃ君ジム行くんでしょ?」
「んー…うん。そのつもり」
最初は新鮮だったけど、今じゃもうすっかり呼ばれ慣れた「みぃ君」呼び。
下の名前で呼ぶのが何だか恥ずかしいらしく、麻妃が付き合いだした当初に勝手にそうやって呼びだした。まぁ新鮮でいいけど。
そして最近休みの日に体力作りにジムに通っている俺は、その言葉に頷く。
すると、
「じゃあ、お弁当作ってあげよっか!」
「え、」
麻妃の肩に、頭を預けていると、ふいに降ってきたそんな言葉。
思わぬ麻妃の一言に顔を上げると、至近距離で目が合って、思わずドキッとした。
だって手作り弁当って、嬉しすぎる。
しかもあの、「麻妃先輩」の。
ってかそれ、マジで?
「…ホントに?」