初恋フォルティッシモ
彼はそう言うと、一旦部屋を後にしてキッチンに向かう。
…大丈夫かな。
あたしはそんなみぃ君が心配だけれど、動けない。
レトルトだから大丈夫だろうけど……いや、わざわざ卵入れようとか…思わないよね。
いや、ってか思わないでほしいな、みぃ君。
…そうやって、あたしが彼を心配をしてしまう理由。それは…
みぃ君って、料理が全く出来ないから。
付き合い始めた当初。
あたしはそれを初めて知った。
会社が休みだった夜に、みぃ君が「今日は俺が夕飯作るよ」なんて言ってくれたから、あたしは期待して待っていた。
だけどやっと出来上がったものは、見た目だけじゃもう何ものなのかわからないくらいの怪しい物体で。
黒くて丸いから…ハンバーグを焦がした?なんて思ったら、みぃ君が言ったのだ。
「これはサラダだ」と。
あんな物凄い恐怖、あたしはそれまでに味わったことがなかった。
しかも、みぃ君本人が全く自覚してないから更に怖い。
そう思いながら、待つこと数十分くらい。
やけに遅いな。
なんて、不安を募らせながら待っていると…やがてみぃ君がやっと部屋に戻ってきた。
「…おまたせ」
そう言って持ってきたのは、どこからどう見ても普通のレトルトのおかゆ。
…良かった。やけに遅いから余計なもの入れてんのかと思った。
あたしはそのおかゆに安心しながら、言った。
「あ、普通のおかゆだ。美味しそう」
「なに?普通のおかゆって。俺おかゆしか作ってないよ」
「いややけに遅いからさ、どうしたのかと思って」
もしかしたら、レトルトなのに作り方よくわからなくて遅くなったのかな?
そう思いながらもみぃ君からスプーンを受けとると、その時みぃ君が言った。
何故か、子供のような、ワクワクした顔をして。
「遅くなった理由は言えないな。っつか早く食べてみてよ!」
「…うん。え、ちょっと待って。みぃ君何でそんなにワクワクしてんの?」
「いいからいいから。一口食べてみて。ビックリするから!」
そう言って、あたしを目を見ながら目を輝かせるみぃ君。
しかしそんな彼に、あたしは再び不安を覚えた。
え、何。ビックリするって何で?
え、もしかしてこれ、おかゆに見せかけて実はおかゆじゃない…とか!?
だったら目の前のコレはいったい何なの!?
…あ、でも、みぃ君は「おかゆしか作ってない」って言ってたしな…。
そう思いながらなかなか食べれずにいたら、そんなあたしにみぃ君が言った。
「ね、早く食べてよ!実はさっきおかゆの中に、クリスマスプレゼント作って入れておいたから!絶対美味いよ!」
「!?」
【風邪引きのクリスマスイブ/おまけ②】
(…あたしやっぱり、お腹空いてないからやめておくよ。ごめんね)
(え、何で!あ、じゃあクリスマスプレゼントだけでも食べる!?)
(それだけは絶対にイヤ)