初恋フォルティッシモ
納得がいかない。
俺はトランペットが好きで、トランペットを吹きたいがためにわざわざ入りたくもない部活に入ったんだ。
トランペットのためだけに。
けど、入部したあとにまさかの「サックス」って……変だ。おかしすぎる。
俺、サックスだってちゃんと吹けた記憶…ないのに。
しかし俺の言葉に、また先生が言った。
「…まぁ、今は納得がいかなくても、そのうちサックスも好きになるよ」
「ならないね。俺はトランペットのためだけに入部してんだから」
「サックスだって、あなたの知らない魅力がいっぱいあるよ?」
「知りたくもねぇよ。元々サックスなんて全然興味ないし」
俺はそう言うと、「やってらんねぇ」と先生がいる教卓を殴って、その場を後にしようとする。
…ここは、校内の空き教室。
今ここには吹奏楽部の新入部員がいて、皆はもう自分の担当する楽器を知らされたあとだ。
もちろんトランペットは、別の女子。
すると、空き教室を出ていこうとする俺に、後ろで先生が言った。
「…どうしても嫌なら辞めても構わないから。一度くらいサックスの教室に顔を覗かせてみたら?」
「…」
「せっかくのチャンスなんだよ」
…チャンス?………何が。
だけど俺はその言葉を完全に無視すると、すぐに独り廊下に出てそのドアを乱暴に閉めた。