初恋フォルティッシモ
いや、ちょっと待てってマジで。オイ。
「…冗談だ…ですよね?」
「冗談なわけないでしょ。こっちは本気なんだから」
「ふざけんなよ…」
俺がそんな麻妃先輩の言動にそう言うと、ふいにまたその言葉遣いに厳しく反応した麻妃先輩が、じろ、と俺の方を振り向く。
慌てて「ふざけないで下さいよ」と丁寧に言い直したけど、どうやらその言葉自体が良くなかったらしく、麻妃先輩は口を膨らませながらまた文字を書き出した。
……いちいち細けぇの。
「…んなもん今ここで全部覚えられたら俺とっくに天才っすよ。入学した高校だって違ってただろうし」
「これくらい平気だよ。たかが音楽の記号じゃん」
「だから無理だって言ってるじゃないっすか。いっぱいありすぎだし」
「頑張って覚えて。あたしも頑張って教えるから」
麻妃先輩は俺が何を言おうが構わずにそう言うと、黒板に書いた記号の隣に読み方や意味も書いていく。
俺はそれをため息交じりに書き写すけど……もういい加減辛くなってきた。遊びに行きてぇ。
そう思いつつ机の上にペンを置くと、俺は半ば強引にそれを書き写すのをやめた。
…すると、やがてそんな俺の行動に気づいた麻妃先輩が、俺の方を振り向いて言う。
「…何してんの?ちゃんとメモって」
「無理。俺帰る」
「ダメだよ。ちゃんとメモりながら覚えて、小学生じゃないんだから」