初恋フォルティッシモ
「…三島くん、」
「!」
そして背後で麻妃先輩が俺を呼んだ時、俺は柄にもなく少し慌ててしまった。
…いや、何でって。俺にもわからない。
ただ何故か、心臓が焦らすから。
だけど、そんな自分に戸惑いつつも…俺は振り向かないまま麻妃先輩に言った。
「……バカじゃねぇの、」
そう言って、背中越しに笑う。
いや、バカは俺なんだけど。だってあんな音楽の記号一つ、まだ覚えられていないから。
でも今は、そんな言葉しか出てこない。
とにかくこの場を終わらせたい。
だから俺はまた言葉を続けると、言った。
「……勉強とか暗記とか苦手…だし俺。だから、あの記号覚えんのも…近くに教科書とかがなきゃ、無理」
「!」
「だから諦めて…下さい。……サックスは、別に嫌いじゃないですけど」
俺はそう言うと、やがていたたまれなくなって…またその場を後にした。
「っ……三島くんっ…!」
「…っ、」
その間も……心臓が、何か話してる。叫んでる。
けど、俺にはそれが何なのかわからなかった。
もう…辞めよう。やっぱ辞めよう吹奏楽は。
どうしても、俺には合わない…。
そう思うと何故か、ズキズキと俺の心が傷みだした……。