初恋フォルティッシモ
………は?
俺は思わぬその人物の声をも聞くと、思わず、ドアノブに掛けていた手をゆっくり下に下げる。
……これ、麻妃先輩の声だ。
その声に俺がますます聞き耳を立てると、二人の会話がまた聞こえてきた。
「いいよね~、麻妃は青田くんの先輩だから話す機会いっぱいあるじゃん」
「へへっ、いいでしょ」
「青田くんって、最初は真面目すぎてクールな印象あったけど、実は違うんだよね。笑った時に見える八重歯、可愛すぎだし」
…俺はその声を聞くと、何か面白くなくて、小さくため息を吐く。
何で青田の話なんかしてんだよ。
だけど、先輩達がそうやって話しているのも、無理はない。
実際の青田は他の先輩達や同級生の女子達からも、最近よく「とにかく可愛い」と評判なのだ。
最初は、俺もフルートの先輩と同じで青田のことを「真面目で無口で笑わない奴」だと思っていた。
でもそれは「人見知りだから」笑えないだけらしく、青田は実は一回面白いことがあって笑い出すと、なかなか笑いがおさまらない、所謂笑い上戸というヤツらしい。
しかも、最初は眼鏡をかけていたせいか見た目が真面目そうな奴に見えていたけれど、最近何故かコンタクトレンズに変えて、それが「可愛い」の元になった。
青田は、頭が良くてスポーツも出来て、先輩の言うこともちゃんと聞く良い奴だ。
言うことを聞かない、すぐサボる、敬語が苦手、音楽が出来ない俺とは………全然違う。
俺がそう思っていたら、麻妃先輩が言った。
「最近部活に慣れてきたみたいで、青田くんよく笑ってくれるの。もう弟みたいで可愛いんだ~」
「!」
……そう。確かに、奴はモテる。それは知っていた。
けど、麻妃先輩がそう言ってるの、俺は初めて聞いたぞ……。