初恋フォルティッシモ

「……、」



俺はそんな麻妃先輩の言葉を、少し離れたドア越しに聞くと、思わずその場に立ち止まる。

…まさか麻妃先輩が、フルートの先輩の言葉に対してそういうふうに言うと思わなかったから。

俺がその言葉にその場から離れないでいると、中でフルートの先輩が麻妃先輩に言った。



「…え、なんか、凄い過大評価じゃない?麻妃。三島くんに対して」

「え、なんっ」

「もしかして……好きなの?」



…は?



「そっそんなわけないでしょ!あくまで、先輩としての評価を言ってるんであって、」

「あーハイハイ、そうだねー。もう季節は夏だしねー。ひと夏の恋ってのも、」

「だーかーらぁ!」



「……」



……恋?

いや………あり得ないだろ。コイツら何言ってんだ。アホらし。


だけど俺はそう思いつつも、実際は麻妃先輩の俺に対する評価が素直に嬉しくて、そのあとは軽い足取りで教室に戻った。


この時の俺は、自分には恋とか愛とかいうものには全く関係がないと思っていた。

好きな人なんて出来たことがないし、だからもちろん恋人とかいう存在もいたことがなかった。


…でも、俺にそれを初めて教えてくれたのも、麻妃先輩だったな。

確かに俺はこの頃、麻妃先輩と会う度に感じるこの異常なくらいの“ドキドキ”を、ずっと不思議に思っていたんだ……。

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