初恋フォルティッシモ
俺がそう言うと、少しだけ目を見開いた青田とまともに目が合う。
歩く足がピタリと止まるから、俺も立ち止まってそいつに言葉を続けた。
「…だから、俺も負けねぇから 」
「!」
「お前がどんなに麻妃先輩を好きでも、麻妃先輩は俺がもらう。絶対譲らない」
「…っ、」
「悔しかったらお前もキスくらいしてみろよ。ライバルなら、それなりに手強い奴の方が燃えるな、俺は」
「!」
俺はそう言うと、びっくりしたように立ち尽くす青田に背を向けて、再び家までの道を歩きだした。
…後ろからは、もう青田の声は聞こえてこない。
思えば、この時の俺の言葉が、当時のアイツの恋心に火をつけてしまったんだと思う。
青田は俺の見えない背中で、両手を力強くぎゅっと握りしめた…。
「…ふー、」
風呂から上がってリビングに戻ると、俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出してそれを一気に飲み干した。
……あ…そう言えば、あの時のプリクラ。
どこにしまったんだっけ。
俺はそう思いながら、手当たり次第にそれを探すと…やがて寝室の棚の引き出しからそれを発見した。
思い出の、麻妃先輩とキスしたプリクラ。
結局あれから俺と麻妃先輩は部活内で噂になって、同学年の女子達や先輩達からいろいろ聞かれたっけ。
あのあとしばらくの間、俺を見る度に気まずそうにする麻妃先輩も可愛かったな。
…キスしたあの瞬間。
先輩の柔らかかった唇も、初めてのキスの味も、唇を離した直後の先輩の赤い顔も…今でも全部全部覚えてる。
今、あの頃に戻りたいって強く願ったら…
簡単に、戻ってしまえばいいのにな。
俺は冷蔵庫から2本目の缶ビールを取り出すと、また過去のことを思い返した……。