初恋フォルティッシモ

商店街の途中に位置する、見慣れたそれだった。

自分が予想していた場所とは全く違う店だったから、俺は思わずぽかん、と口を開ける。


初デートは、見慣れたCDショップか。

……まぁいいけど。



「…何のCD見に来たんすか?」



先に中に入っていく麻妃先輩を追いかけるように俺も後に続くと、先輩の背中にそう問いかける。

すると麻妃先輩は、店内の奥に進みながら言った。



「今部活で練習してる曲のCD」

「え、」

「アレ、良い曲だと思わない?あったら欲しいなぁと思って」

「…」

「それに、CD持ってたら明日からの練習にも役立ちそうじゃん」

「……」



……結局部活関係かよ。


俺は麻妃先輩のそんな言葉を聞くと、完全に「デート」を期待していただけに少し落ち込んでしまう。

まぁ、でもよくよく考えてみればそうだよな。

俺と麻妃先輩は、同じ部活内の先輩後輩だからこうやって一緒にいるんであって、お互いに共通の話題と言ったら他には何もない。



「…あっ、あった!ね、これじゃないっ!?」

「…そうっすね」

「もー、素っ気ないなぁ三島くんは」

「……」



俺は麻妃先輩が不満そうに口を膨らませる隣で、なんとなく店内をキョロキョロした。


…それっぽい雰囲気なんてゼロだけど。

でもやっぱ、こういうところでも俺はちゃんとしたデートがしたい。
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