スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
俺はスタッフと談笑しながら、セットの本棚内の絵本を整理するヒナを眺めていた。

元書店員だけあって、慣れた手つきだ。


女の子が後ろから近付き、彼女の手元をジーッと見つめている。

やがてそれに気付いたヒナは女の子に何やら話しかけ、小さな声で絵本の読み聞かせを始めた。


すると好き勝手に遊んでいた子どもが一人、また一人とヒナの周りに集まり出し、最終的には全員がヒナの絵本に聞き入っていた。

さっきまでの騒がしさが嘘のように大人しい子ども達は、絵本の展開に一斉に笑ったり歓声をあげたりしている。

最初に近付いた女の子はいつの間にかヒナの膝の上に座り、楽しそうに絵本を見ていた。


スタッフ含めその場にいた大人も皆、その光景に釘付けになっていた。


「はい!もうおしまいっ」


ヒナが絵本を閉じてそう言うと、えーっ!と大ブーイングが起きた。

「もっと読んでー」「これも読んでー」と立ち上がった子ども達はヒナに群がる。


「じゃあ撮影終わったらこの本もこの本も、全部読んであげる。」

「ほんと?」

「うん。カメラマンさんの言うこと聞いて頑張れる?」

「うん!」


元気な返事が辺りに響き、ヒナはにこにこしながら俺の元へ歩いてきた。


「春木さん。話つきました」


周りのスタッフがどっと笑う。


「……やるじゃん。」


俺のアシスタントはやっぱり不思議な奴だ。
はにかんだ笑顔が、妙に可愛かった。
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