スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
実際彼女による読み聞かせの効果は絶大で、撮影再開後の子ども達は素直に言う事を聞くようになった。

押していたはずの撮影がサクサク進み、予定より早めに終了した程だ。

別室で休憩していたカレンは事のなりゆきがわからず、その違いに戸惑っていた。


『不思議な特技』は子どもにも有効のようだ。
撮影が終わった頃には、ヒナは彼らにすっかり懐かれていた。


ふんわりと優しい雰囲気が子供を安心させるのか。
それとも親近感を持たれやすい外見なのか。


本人は意識していなくとも、生きていくうえで得する事は案外多いんだろう。

彼女はやっぱり俺が関わった事のない種類の人間だ。



「右手、もう少し上。顔は真っ直ぐのままで」


前回の撮影よりも少し腹が膨らんだ気がする。
……中で人間が成長してるんだ、当たり前か。


「ん。次、目線外してみよう」

「はぁい」


相変わらずの少し鼻にかかった声に、記憶の扉をこじ開けられる。

ファインダーの向こうで笑うカレンもまた、当時の俺には物珍しい存在だった。
 
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