スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
「ねぇ、あたし貴方の事好きかも。」
彼女と初めて出会ったのは五年前、とある雑誌の撮影だった。
既にフリーカメラマンとして活動していた俺に仕事の依頼がきたのだ。
「……何言ってんの?」
撮影終了後、機材を撤収している俺に西澤カレンが話しかけてきた。
彼女の名前は聞いた事もなかったが、どうやら若者向けの女性誌でカリスマ的存在のモデルらしい。
確かにその辺のモデルとは段違いだとわかるほどの顔とスタイルを併せ持つ彼女は、当然のように自分に自信を持っていた。
撮影用の白熱灯の下、明るく染められた髪が輝いている。
「タイプかもって言ってるの。彼女いないなら付き合わない?」
「意味わかんねぇ。初対面だし」
「そんなの関係ないよ。一目惚れだもん」
「そこどいてよ」
俺はカレンの足に絡みつくコードを巻き取りながら言った。
強い視線を無視して屈み込むと、彼女も何故か隣に屈んだ。
肩が触れる程近い。香水の匂いに頭の奥がグラつく。
「……なんだよ」
「あたしじゃダメ?春木リョウくん」
カレンは日本人離れした大きな瞳で俺の顔を覗き込む。
まぁ男なら当然といえる自然の摂理によって、不覚にも少し気持ちが揺れた。
だからといって、わかりましたよろしくねなんてなる筈がない。
毎日の仕事でスケジュールも頭の中も埋め尽くされ、色恋沙汰にかまけている暇はなかった。
何よりこの女、モデルだか何だか知らないが関わると面倒くさそうだ。
「やだよ。あんたみたいな軽そうな女」
俺はそう言い残しさっさとスタジオを後にした。
しつこい彼女をあしらうため、全く適当に放った言葉だった。