スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
事務所のあるフロアまで一気に階段を駆け上がった。

その勢いのまま走り出た廊下で、今まさに扉に鍵を差し込もうとしている春木さんと鉢合わせた。
こちらを見て目を丸くしている。


「びびっ、たー……」


春木さんの姿を見つけた途端、夢から醒めたみたいに意識が現実に戻ってきた。

乱れた呼吸はなかなか落ち着かない。
心臓がばくばくとうるさかった。


「階段で上がってきたのかよ。出かけてたの?」


春木さんの問いかけに無言で頷く。


「そんな薄着で?」


春木さんは怪訝な顔をした。



一瞬、言葉に詰まった。
嘘をついたところで見抜かれてしまう気がした。


「あの、一條さんが」

「は?」

「一條さんから電話がかかってきて、ニット帽預けてたの取りに来たいって。コートかけにかかってたので車まで届けに行って渡してきました」
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