スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
人物を写さないのだから、ストロボを焚く意味は全くない。

でも私は敢えてそうした。
あの日、春木さんから教えられた通りに。


撮れたのは、ビーズのような光の粒が暗闇にきらきらと弾けているだけの写真だった。

春木さんと一緒に見たパリの夜景の足下にも及ばない、シンプルな夜景。

それでも私が一人で撮ったにしては上出来だろう。



息づいている。

春木さんの欠片が
私の中で。


もう二度と会えないんだとしても
全てが消えてしまった訳じゃないんだ。



「…ひ、っく……」



もう泣かないと決めたのに
前を向こうと決めたのに


やっぱり無理みたいだ。


涙の滴が落ちそうになった瞬間
デスクの上で携帯電話が鳴った。
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