スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
私たちはパリにいる間、ジルさんのお家に泊まる事になった。
ジルさんは春木さんより随分年上だけど、ニ人は気の合うカメラ仲間のようで春木さんも珍しくよく喋っている。

そしてジルさんの日本語が完璧だったおかげで私もジルさんとすぐに打ち解けることが出来た。


ジルさんの家に着くと他にも数人カメラマンが集合していて、春木さんは彼らとも楽しそうに話していた。
といっても、全部英語だったために私には内容がほとんど聞き取れなかったけれど。

ジルさんによると彼らはジルさんの知り合いで春木さんの写真のファンらしい。


こんなに遠くまで春木リョウの名前は届いているんだ……。
そう思うと胸が震えた。


やがてその中の若い男性が一人、私の所へやってきた。
彼は私を指さしながら、隣にいるジルさんに何やら話しかけた。ジルさんが「ヒナ・タミヤ」と答えると、彼はにっこり笑い私にフランス語で何か耳打ちして去っていく。


「君はとてもキュートだね。だって」

「へ?」


いつの間にか私の後ろへ回り込み、聞き耳を立てていたらしい春木さんがぶっきらぼうにそう言った。


「ナンパされてんじゃねーよ」

「ナ、ナンパなんですか?今の」

「どこの国にもいるんだな。ロリコンて」

「なっ、」

「撮影行くぞ。三脚持ってこい」


サラリと私に命じ、春木さんは玄関へ歩き出す。
喉まで出掛かった文句を仕方なく飲み込んで後に続いた。
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