スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
「待てっつってんだよ!」
数百メートル先で前を走る背中に追いつき、ジャンパーの襟首を後ろから掴んで引き倒した。
無様に尻餅をついた男は、伸びた前髪の隙間から鋭い目で俺を睨んでいる。
若い男だ。
20代……ひょっとして10代かもしれない。
「お前だな?ヒナをストーカーしてたのは」
襟首を捕まえたまま低い声で問いかける。
男が被っていたキャップを剥ぎ取った瞬間、絶句した。
見知った顔だったからだ。
「お前……」
男は悔しそうな表情を滲ませ、顔を背けた。
今までに何度も、俺はこいつに会っている。
撮影でよく利用するスタジオの受付を担当している男だった。