スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
顔を上げると、正面に立っている春木さんがどこか頼りなげな目つきで街を見下ろしていた。

近くにポツンとある街灯に照らされた春木さんの横顔は、なぜか私の胸を締め付けて


「春木さん…?」


思わず名前を呼んだ。



「……こうして知らない街にいるとさ、」



春木さんは目線を動かさずに話す。


「自分て無力だなって思うんだ。誰も俺の写真なんて興味ないんだろうなって。日本で多少ちやほやされたって、一歩外に出ればほとんどの人間は俺の事なんて知らないんだ。当たり前なんだけど、それがどうしようもなく歯痒い時がある。世界中の人の心を掴む写真が撮りたい。いつもそう思ってる」


私はぽろぽろと零れる春木さんの言葉を、じっと聞いていた。

彼の本音を逃したくなかった。ただの一言も拾い忘れたくなかった。


「だけど現実はまだまだこんなもんだ。もし俺がこのままカメラを置いてフラーってどこかへ消えたとしても。世界って普通に廻っていくんだろうなって…」

「廻りません」


春木さんは驚いたような顔でこちらを振り返った。


「少なくとも私の世界は、普通には廻りません」


私は春木さんを見つめてきっぱりと言う。


春木さんの抱える不安を、迷いを、夢を
一瞬だけ分けて貰えた気がしたから。


「私が、見てます」

「え?」

「春木さんがフラリとどこかへ行っちゃわないように。私がちゃんと見張ってますから!」
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