スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
突然、強い力で腕を掴まれ
人の波からぽんっと外れた私はようやく息継ぎをする事が出来た。


「大丈夫?」


心配そうに顔を覗き込まれ、肩で息をしながら頷く。

私を助け出してくれたのはジルさんだった。
一人はぐれた私の姿を見つけて横道まで連れてきてくれたみたいだ。

ジルさんの顔を見た途端、安心して思わず涙が零れそうになったけれど何とか堪えた。


「春木さんは?」

「あぁ、先に合流したよ。リョウ!ヒナを見つけたぞ!」


ジルさんが周囲に聞こえるように叫ぶ。
間もなく春木さんが人混みの中から現れた。


「……いたか」


私を見てふっと息を吐くと、春木さんはすぐにまた顔を引き締めた。


「言っただろ。ちゃんと着いてこいって」

「何を…悪いのは君だよ、リョウ。こんな大荷物を背負ってあの通りをはぐれずに抜けるなんて、小柄な女の子には無理だ。君が後ろを気にするべきだろう」


私が謝るより先にジルさんに叱られた春木さんはバツが悪そうに顔を背けたが、もう一度私を見て表情が凍った。


「お前……バッグ」

「え?」

「カメラバッグはどうした?」


そう言われて初めて、肩に掛けっぱなしだったショルダーバッグが妙に軽いことに気が付いた。
おそるおそる春木さんの視線の先を追いかけると。


「な、なにこれ……!?」


春木さんのフィルムカメラが入っていたバッグは、バッグの部分だけが綺麗に無くなっていた。
私の肩には残されたヒモが空しくぶら下がっている。


「……やられたね」


ジルさんがヒモの先を丹念に調べながら言った。

「刃物ですっぱり切られてる。さっきの人混みに紛れてバッグだけ持ち去られたんだ」

「それって、」

「スリだ。」
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