スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
「……」
あまりの衝撃に
言葉を失った。
バッグを受け取りチャックを開けると、中には確かに俺のフィルムカメラと今回撮影したフィルムが全部まとめて入っている。
「どこにあった?」
「大通りのゴミ箱に、バッグとフィルムは捨てられてました。カメラは街外れのリサイクルショップみたいな所のショーウインドウに飾ってあって。真夜中だったんですけど、お店の人起こして返してもらいました」
彼女は俯きながら、ぽつぽつと話す。
その声からは疲労の色が見て取れた。
「これ探しに行ってたの?」
「はい」
「一晩中?」
「……はい」
俺のアシスタントの行動はいつも予想の斜め上だ。
上目遣いで俺の表情をうかがう瞳が、怯えた子犬のようで
思わず吹き出してしまった。
「すげぇ奴だな。めちゃくちゃじゃん」
自分の着ているパーカーの袖で頬の泥を拭ってやると
顔を上げた彼女の瞳が、みるみる潤んでいった。
「よ…かったぁ……」
「え?」
「絶対、クビだと思いましたぁ…っ」
俺が理不尽に怒鳴りつけてしまった昨夜から、一晩中我慢していたのだろう。
涙は後から後から溢れ出す。
「……泣くなよ」
「ごめんなさ…安心しちゃって……」
ひく、としゃくりあげる彼女の顔を両手で包んで
「泣くな」
涙も袖で拭ってやった。
「誰がクビにするかよ。あんたみたいな貴重な生き物」
「……っ」
「ありがとな。」
乱れた髪を撫でながらそう言うと
彼女は小さく頷いた。
……あぁ、
やっと笑った。