スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
俺のアシスタント、田宮ヒナはどこまでも透明だ。
現代の日本でよくここまでスレずに生きてきたと思う。


岳に言わせりゃ、高校生と見紛うような外見だけの話ではない。

確かに彼女は丸顔で、くりくりとした丸い目が忙しなく動く様は実年齢より幼い印象を与えがちだろう。


でもそれに加えて、醸し出す雰囲気まで何だか丸い。
彼女の纏うふんわりした空気に油断した相手が、ついいろいろ話してしまう……という不思議な特技を持っていた。


それは俺自身も身に覚えがある。



夜景を撮影したあの日の夜、俺は突如こみ上げてきた虚しさに足をすくわれそうになっていた。

俺の写真なんて、誰も求めていないんじゃないか?
こんな所まで来て何を撮りたいっていうんだ?

日本で毎日忙しく仕事をこなしている間は、何てことないのに。
外国の街並みはいつも俺をこんな気分にさせる。
ふと心に隙間風が吹いたみたいに。


隣にいた彼女につい漏らしてしまった弱音。

『このまま俺がいなくなっても』なんて
現実味のない絵空事。


「私が見てます」


そう言われた瞬間
自分でも気が付かないうちに山ほど背負い込んでいた荷物を
少しだけ下ろす事が出来たような気がした。


……何だ。
俺が欲しかったのは、こんな簡単な言葉だったのか。


拍子抜けして笑ってしまった。
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