スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
「付き合ってたんだよ。三年前まで」
まるで今日の天気でも口にするみたいに
あっさりと一條さんは教えてくれた。
「リョウにしては珍しく結構惚れ込んでたみたいだけどね。俺とリョウとカレンちゃんの三人で呑んだ事もあるよ。二年以上は付き合ってたんじゃないかなぁ。上手くいってると思ってたのに、どこぞの社長にあっさり鞍替えだ。そんであっという間に子ども作って結婚しちまった」
その場からピクリとも動けなかった。
相槌を打つ事すら忘れていた。
『リョウちゃん』と春木さんを呼ぶ西澤さんの甘い声が、耳について離れない。
彼女だけに向けられた春木さんの笑顔も。
「結局金と権力かよってリョウは笑ってたけど、強がってんのバレバレでさ。痛々しくて見てらんなかった。本気で好きだったんだと思うよ。最近やっと立ち直ってきたかなって思ってたけど」
一條さんは飲み終えた缶コーヒーのラベルを何度も指でなぞっている。
「……本当はまだ忘れられないのかもな。」