スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
ぴゅう、と口笛が聞こえた。
春木さんだ。
面接官がそれを目で制して私に続きを促す。
「私は、大学を卒業してから三年間、ずっと書店員として働いています。主に芸術書の分野を担当していて……最初は仕事で春木さんの写真集を手に取ったんです。」
その時の衝撃は、今も忘れる事が出来ない。
表紙を飾る大きな滝の写真を見た瞬間、心を奪われた。
轟々と流れる水の音。
涼やかな匂い。降り注ぐ日差し。
まるでその場にいるみたいに、そこに写された全てをハッキリと感じた。
「ページをめくっている間、ずっと胸がドキドキしました。こんな写真を撮る人がいるんだって。私はただの素人ですが、それでも魅力を感じたんです。撮影技術とか専門的な事は何もわかりません。けれど、とにかく春木さんの写真はすごいと思いました。多くの人の心を動かす力が確かにあるんだって」
そこまで一気に話し、私は大きく深呼吸した。
ふと気付けば室内は水を打ったように静まりかえっている。
……あれ。また呆れられてるのかな?
「キミ。書店員って、どこの書店で働いてるの?」
「あ、地元です。北海道の」
「今日の面接のために北海道から出てきたの!?」
面接官が上げた素っ頓狂な声に、春木さんはくくくっと吹き出した。
「もうだめだ、俺。限界……!」
狭いパイプ椅子の上で腹を抱えて笑い出す。
何だか自分がものすごくとんちんかんな事を言ってしまったような気がして俯いた。
耳に熱が集まり赤くなるのがわかる。
「と、とにかくわかりました。これで面接は終わりにします。結果はまた後日…」
「いや、」
面接官の話を遮って発せられた声。
全員の視線が春木さんに集まった。
「その必要はない。」
つかつかと面接官二人が座る机に歩み寄り、彼は私の履歴書を指でつまみ上げた。
「えーと名前は……タミヤ ヒナさん」
「は、はい」
彼は私を見た。今度はしっかりと。
また口の端を持ち上げてに、と笑う。
「採用で。」
春木さんだ。
面接官がそれを目で制して私に続きを促す。
「私は、大学を卒業してから三年間、ずっと書店員として働いています。主に芸術書の分野を担当していて……最初は仕事で春木さんの写真集を手に取ったんです。」
その時の衝撃は、今も忘れる事が出来ない。
表紙を飾る大きな滝の写真を見た瞬間、心を奪われた。
轟々と流れる水の音。
涼やかな匂い。降り注ぐ日差し。
まるでその場にいるみたいに、そこに写された全てをハッキリと感じた。
「ページをめくっている間、ずっと胸がドキドキしました。こんな写真を撮る人がいるんだって。私はただの素人ですが、それでも魅力を感じたんです。撮影技術とか専門的な事は何もわかりません。けれど、とにかく春木さんの写真はすごいと思いました。多くの人の心を動かす力が確かにあるんだって」
そこまで一気に話し、私は大きく深呼吸した。
ふと気付けば室内は水を打ったように静まりかえっている。
……あれ。また呆れられてるのかな?
「キミ。書店員って、どこの書店で働いてるの?」
「あ、地元です。北海道の」
「今日の面接のために北海道から出てきたの!?」
面接官が上げた素っ頓狂な声に、春木さんはくくくっと吹き出した。
「もうだめだ、俺。限界……!」
狭いパイプ椅子の上で腹を抱えて笑い出す。
何だか自分がものすごくとんちんかんな事を言ってしまったような気がして俯いた。
耳に熱が集まり赤くなるのがわかる。
「と、とにかくわかりました。これで面接は終わりにします。結果はまた後日…」
「いや、」
面接官の話を遮って発せられた声。
全員の視線が春木さんに集まった。
「その必要はない。」
つかつかと面接官二人が座る机に歩み寄り、彼は私の履歴書を指でつまみ上げた。
「えーと名前は……タミヤ ヒナさん」
「は、はい」
彼は私を見た。今度はしっかりと。
また口の端を持ち上げてに、と笑う。
「採用で。」