世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
「昔会ってるって、もしかして翡翠の初恋相手...?」

「あぁ。そう言ってたな。それに、天馬からも聞いてた。昔一人の女の子に会ったことがあるってな。二人の話に共通点が多かったから、白河に教えたんだ。きっとそれは天馬だったんだろうってな」


翡翠の初恋相手。
どこか大人びている、花を見る表情が冷めていたらしい彼。

もしかしたら、その花を見た坂瀬くんの表情は、翡翠の絵を見ていた表情と似ていたのかもしれない。

軽蔑や冷ややかさではない。
色が見えない坂瀬くんは、きっとその綺麗さを感じられなかったから。


「白河には色が見えていないことは教えてない。でも、白河も天馬が見せるちょっとした異常さに気づいたんだろうな。でも、言ってたよ」


青柳颯太は優しい表情になり、私を見た。


「お前といるときのアイツは、誰より笑顔で、自然だったってさ。さすが天馬を好きだっただけあるよな。よく見てるよ、白河は」


翡翠が坂瀬くんのことを想っていたことを知って、どこかに後ろめたさを感じていた。

でも、翡翠は私に優しい言葉をかけてくれた。
坂瀬くんを諦めなくて良いようにそう言ってくれた。

やっぱり、純粋で優しくて、女の子らしい子。
淡い色の花のような子だと思った。

翡翠みたいになれたらって、いつも思う。


「翡翠みたいに、なれたらよかった」

「白河は遊佐みたいになりたいって言ってたけどな」

「なんで...私なんかになったって...」

「自分の意見を持ってるし、仲良くなると自分のことより相手のことを考えてしまう人だって言ってた。白河から見れば、自己犠牲なのはお前も同じなんじゃねぇの」


私が?
自己犠牲?
こんなに自分勝手なのに?


「人間はみんな自己犠牲な面は持ち合わせてんだよ。つーか、自己犠牲さがねぇヤツは生きていけねぇだろ。 それに、俺や白河は嫌でやってる訳じゃねぇ。自分では自己犠牲なんて思ってねぇよ。自分がやりたいと思うことして何が悪いんだ」


青柳颯太は、相変わらず優しくて、私の考えてることが、分かってしまう。

自己犠牲だなんて、青柳颯太の今までの生き方を否定しているようですごく悪いことをしたと思った。

考えてみれば、翡翠も自己犠牲ではないと言っていたじゃないか。


「ごめん。...ありがと、青柳颯太」

「相変わらずフルネームで呼ぶんだな、俺のこと」
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