世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
「でも、この施設を出て分かったんです。おかしいのは俺だって。だから、笑うように努めました。おかしいと思われたくない、仲間外れにされたくない。そんな、人間らしい感情、俺にもありましたよ」


天馬の、初めてみた笑顔の意味が、分かった気がした。
不自然な、薄笑い。

それは、周りと同じでいたいという、彼の努力だった。


「...でも、お前はあの時より随分人間らしくなったじゃねぇか。お前の愛想笑いは、随分と人間としては自然だったよ」


男の言葉に、天馬はくすりと笑った。


「あの子のおかげ、かな」

「あの子?」

「...林檎飴みたいな真っ赤な頬をした、俺の大切な女の子」


その言葉に、ドキッとした。


「なんとなく、気にしてたんですよ。本を読んでる彼女を。俺も本を読むのが好きだった。色が見えなくても、本の中ではいつだって色が見えたから。その子、本を読んでる時、すげぇいい表情してるんだ。俺もその子が見てる世界を見たいと思った。同じ本を読めば、俺もあんな表情になれるんじゃないかって。もっと、人間に近づくんじゃないかって。初めはそんな理由でした」


そこまで言って、天馬は顔を上げた。


「でも、その子といると、どうでもよくなったんですよ。人間らしさとか、そんなの考えなくなって、ただ、楽しくて」
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