世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
「遊佐、やめろ!」


青柳颯太は私の後を追い、走ってきた。

それと同時に、天馬も私の元へ走ってくる。


そして、天馬が私の方へ手を伸ばす。

避けられない。
それでいい。

天馬、私は天馬のおかげで、こうやって真っ直ぐに何かを想うことが出来るようになったんだよ。

これは、自己犠牲なんかじゃない。
大好きな君への、恩返し...。

そう思って、目を閉じた。

しかし、痛みはやって来ない。

恐る恐る、目を開けた。

そして、目の前の光景に、震えた。

天馬は、一心不乱に青柳颯太を殴っている。
しかし、青柳颯太は反抗しようとしない。

...あの日にも、似た景色を見た。

あの時は、逆だった。
青柳颯太は、天馬がこれ以上金平糖を食べないようにと、天馬を殴っていた。
天馬から景色を奪わないように。
天馬がこれ以上苦しむことのないように。
優しくて不器用な青柳颯太の、天馬を守る方法だった。

でも今は、天馬は色を奪おうと青柳颯太を殴っている。
青柳颯太のことなんか、きっと何も思っていない。

青柳颯太は、こんなにも天馬のことを思っているのに。
今の天馬には、この優しさが届かない。
こんなにも愛に溢れた優しさに、天馬は触れられない。


「天馬、お願い...やめて...そんな人じゃないでしょ?」


聞こえるはずがない。
目の前にいるのは、天馬であって天馬じゃない。
届けたいのに、伝えたいのに。


「天馬!」


もう難しいことを考えるのはやめた。

青柳颯太の思いも、私の想いも、天馬にぶつけよう。

私は天馬のことを、思いきり突き飛ばした。
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