世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
「えっ」


目の前の意外な人物に、私は戸惑ってしまった。

坂瀬くんは、私を見つめて首を傾げる。
可愛らしく中性的なその動作は、とても自然だった。


「何て本?」

「『Teary eyes』。いつも目に涙を浮かべている少女の話」

「へぇ、なんか不思議な本だな」


正直な人だなと思った。
面白そうだ、とか言わないところが。


「ねぇ、もっと聞かせてよ」


坂瀬くんは私の前の席に座った。

皆の視線が集まってくるけど、坂瀬くんはそのことを気にも止めない。


「もっと?...そうだなぁ。この女の子は、美しい世界を見て涙を浮かべるの。色とりどりで、綺麗な世界を見て」

「色とりどりで、綺麗...」

「うん。彼女の台詞でこんな台詞があるの。『世界は美しい。こんな世界の中にいて、純粋な愛を受けて、それでも私は、きっと穢れている』」

「なんか、深い感じ。馬鹿な俺には難しくてちゃんとは理解出来ねぇや」

「私にもちゃんとは理解出来てないよ。でも、なんか好きなんだよね。私も、いつかそんな景色を見たい。少女はきっと、穢れてなんかいない。ただ、彼女は美しすぎる。だから世界も美しく見えるし、涙も出てくるんじゃないかな」


そこまで言って、私はふと気付いた。
こんなにも自分の好きなものについて熱く語っちゃったことなんて、今までに一度もなかった。

少し恥ずかしくなって、坂瀬くんの方を見る。
坂瀬くんはうんうんと頷いて、熱心に聞いてくれてる。

坂瀬くんは聞き上手。
それに酷く納得した。


「それ、読み終わったら貸してくれない?」

「えっ?」

「興味が湧いたから、読んでみたくなった」


坂瀬くんはそう言ってまた緩く笑って、自分の席へ戻っていった。

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