世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
それから家に帰り、私は部屋の学習机の椅子に腰掛けた。

そして、鞄から坂瀬くんに借りた本を取り出す。


[世界を愛す方法]


まるで難しい評論文のようなその題名。
しかし、評論の題としては随分と漠然としたテーマを掲げていて、突飛なものだと思った。

1ページ目を開くと、学校でも見たあの1文が目に入った。


[この世界は、君が思っているより優しく、あたたかい]


この一言に惹かれたのだと、坂瀬くんは言っていた。

確かに、その一言は私の興味を惹くのに十分なものだった。
世界を冷たいものだと思ったことは特にないけれど、あたたかいものだ、と改めて感じることも特にない。

私は本のページをもう1ページ開く。


[この世界が、僕は嫌いだ]


衝撃的、とまではいかないが、その少し尖っていて捻くれている一言で、その物語は始まった。

そして、読み進めていく。
私はいつの間にかその小説の虜になり、夕食の時間だと呼ぶお母さんの声さえも聞こえないほどだった。

いくら呼んでも部屋から出てこない私に痺れを切らしたお母さんに部屋のドアを開けられ、無理矢理ダイニングに連れてていかれ、夕食をとりながらも私の頭の中はあの物語のことでいっぱいだった。

こんなに引き込まれた物語は、初めてかもしれない。

物語の主人公である少年の少し捻くれた性格。
周りの人達の少年への思い。
少年が徐々に気づく世界の広さと、それ相応の世界の人々の思いの大きさ。
確かに世界は残酷で、毎日失って、なくしていくものがたくさんあって。
でも、人々の心の底は優しく淡い光のランプが灯るようにあたたかくて、何かを失ってなくした分、人々は何か大切なものを広い集めている。

少年と一緒に、読者である私も世界が愛しく感じられる。

凄い。
翡翠の絵を見たときと似たような感覚。

読み終わった後、私は興奮が収まらなかった。

感想を言いたい。
早く坂瀬くんに、感想を伝えたい。

そう思えるほどに、私はこの小説に夢中になってしまっていた。
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