世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
次の日の朝。
教室に入るや否や、私は坂瀬くんの姿を探した。

坂瀬くんはいつも通りクラスメイト達に囲まれていて、私は目を離そうとする。
そこで、坂瀬くんは私の視線に気付き、その人だかりから出てきた。


「おはよう、遊佐さん」

「あ、おはよう、坂瀬くん」


わざわざ友達の輪の中から出てきてくれたことに少しの申し訳無さと嬉しさを感じた。


「本、読んだよ。ありがと」


私はそう言って本を坂瀬くんに渡す。


「...どうだった?」


遠慮がちに聞く坂瀬くん。


「すごく、面白かった」


私の一言の感想に、坂瀬くんは「よかった」と微笑んだ。


「すごくすごく、感動した。一言だけじゃ、語り尽くせないくらい、引き込まれた」


私がそう言うと、坂瀬くんははにかむように微笑んで、「じゃあ、一緒に昼食べない?」と私を誘った。

正直、少し驚いた。
男子にお昼を誘われたことは初めてだったし、坂瀬くんは人気者だから一緒に食べる相手はたくさんいるだろうに、と思ったから。

でも、思い出してみると、坂瀬くんが教室で食べているのを見たことがなかった。
誰か他クラスの人と食べているんだろうか。


「うん、いいよ」

「あ、でも白河さん困るかな」

「いや、多分大丈夫」


多分、春到来!とか言って喜んで自分から席を外そうとするだろうし。


「よかった。じゃあ、また後で」

「うん。またね」


同じクラスなのに、まるで少し遠くに行くようなその言い方に、少し笑えた。

そしてその後来た翡翠にその事を伝えると、「春到来!」と想像していた台詞と全く同じ台詞が返ってきて、また笑えた。
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