世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
「うわ...」


坂瀬くんは美術室に入り、あの絵を見るなり声を上げた。


「すげぇ...なんか、違う世界にいるみたいな、絵に、吸い込まれそうな、そんな感じ」


坂瀬くんは目を見開いて絵を眺めていた。

昨日とは違うその感想と表情に、私は置いていかれそうになる。


「いや、ごめんごめん。昨日は眠くて、よく見られなくてさ」


そう言いながら笑う坂瀬くんに、「ううん」とだけしか答えられなかった。


「この絵から、世界に色が飛び出したみたいだよな」


でも、坂瀬くんの感想は、全て同意できる。
確かにそうだ。

まるでこの絵は、世界の色彩を司っているようだ。


「これ、翡翠の絵なんだ」

「白河さんの?」

「うん。賞も獲ってるの」

「すげぇ...でも、頷ける。こんなに絵に感動したの、初めて」


坂瀬くんは絵から目を離さない。

嬉しい。
坂瀬くんとまた一つ、共有できるものが増えた。

自分の好きなものを認められることは、やっぱりすごく嬉しい。


「遊佐さんって、写真部だったっけ?」

「うん。そうだけど...」

「見てみたいな、遊佐さんの写真」

「私の写真?」

「そう、遊佐さんの」

「大したこと無いよ、私の写真なんて」

「俺ら、結構話合うじゃん。遊佐さんが見て綺麗だと思って切り取った世界の写真、俺も綺麗だって思えるかもしれないだろ」


期待に満ちた、キラキラした表情。


「分かった」


首を縦に振るしかなかった。
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