世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
その日の帰り道。
私は、カメラを首にさげて帰っていた。

今まで、こんなことはなかったと思う。
こんなに写真を撮ることに前向きになるなんて、なかった。

なんとなくだけど、理由は分かる。
きっと、坂瀬くんのおかげだ。

坂瀬くんは明確に教えてくれた。
自分が良いと思ったものを、真っ直ぐに、伝えてくれた。

そう考えれば、自分はなんて単純なんだろうと思えてきた。
たった1人の、たった数分の言葉で、こんなにも気持ちが変わるなんて。

坂瀬くんはまるで魔法使いのようだ、なんて子どもっぽいことを思う。

目の前の猫にシャッターをきって、蹴り飛ばされたサッカーボールにシャッターをきって、公園にいた子ども達とも自然と話せて、シャッターをきらせてもらった。

綺麗、面白い、不思議。
そう思ったものに、まるで当たり前かのようにシャッターをきった。

今まで、考えすぎていたのかもしれない。
どんな写真が評価してもらえるのか。
そんなことばかり考えていた。

写真を撮ることに前向きではないくせに、周りの期待に応えようと楽しむこともせずに、ひたすらに。

でも、それは間違いだと分かった気がする。

気持ちは、もっと楽でいい。
撮りたいものを撮ればいい。
自分が見せたいものを、撮ればいい。

考えることと言えば、坂瀬くんはこんな景色をどう思うか、とか、こんなシーンを見せればどんな反応をしてくれるだろう、とか。

坂瀬くんの言った"また"という言葉に、私は何の疑いもなくその"また"のためにシャッターをきった。

また、写真を見せるときのために。
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