世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
昼休憩になり、私は机の上に弁当を置く。


「一緒に、食べてもいいかな?」


遠慮がちに聞いてきたのは、白河翡翠。
休憩時間に教室に残っている女子で、読書をすることと絵を描くことが趣味の、大人しい子。


「うん、いいよ」


私はその誘いに頷いた。

弁当を食べる相手はたまに変わるけど、大体が翡翠。
大人しいから友達が多い方ではないらしいけど気配りも出来て真っ直ぐな子だから、私は翡翠が結構好きで仲良くなった。


「そういえば翡翠の絵、入賞したんでしょ?」

「うん。よく知ってたね」

「風原先生が自慢気に言ってたよ。白河は美術部の希望の星だーってね」

「あはは、風原先生は大袈裟なんだよ」


翡翠はそう言って笑う。

ロングヘアーのサラサラな黒髪は二つに結ばれていて、睫毛も長くて、私の勝手な考えだけど、翡翠って名前がそのまま人になったような、そんな子。
可憐で女の子らしくて、目立たないからあまり話題にはならないけど、もっと前に出ていったら男子が放っておかないんじゃないかと思う。


「日和ちゃんの写真も、入賞したんでしょ?」


翡翠の言葉に、「まぁね」と返す。


「やっぱり日和ちゃんの写真は凄いんだね。私も日和ちゃんの写真好きだなぁ」


正直、私はあまり写真を撮ることに情熱を持っていない。
部活に入るときに楽な部活を探して、なんとなく入ってみただけ。
でもなぜか、私の写真はいたく気に入られてしまった。


「ねぇ、あとで翡翠の絵、見に行かない?美術室にあるんでしょ?」

「あ、そういえば日和ちゃん、完成した絵は見てないもんね。いいよ、ご飯食べたら行こ」


翡翠はそう言って、少し恥ずかしそうに笑った。

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