世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
「天馬は不思議なヤツだった。何にも興味を示さない、みんなが絵を描いているときだって、ボーッと外を眺めてた。俺は天馬の兄貴にならなきゃと思った。年齢は同じ6歳。でも、先に此処にいたのは俺だし、天馬は俺の弟みたいなもんだから。『一緒に絵を描こう』俺はそう言って誘った。すると天馬は、画用紙に絵を描き始めた。絵はその歳にしては上手かった。でも、天馬は赤のクレヨンから色を変えないんだ。『まるで血みたいだ』って俺が言ったら、『血?...あぁ、赤...だから』ってよく分からねぇ返しをされてな。あれは困った」


青柳颯太はクスクスと笑う。
あまり見たことがない顔だった。


「それから、俺は天馬と一緒にいるようになった。友達っていうより、兄貴として。なんとなく天馬に不安定さを感じたんだ。一人にすると、なんか...消えそうっつーか」


その表情は、宛ら本当の兄のようだった。


「それから俺は天馬を守りたかった。天馬が欲しがるものを、全部やった。俺用に出されたおやつのプリンを見つめていればやったし、本を羨ましそうに見てれば買ってやった。俺は天馬に全てをやりたかった。だから、俺は天馬からお前を奪ったりしない。俺はアイツに全てをやる。俺はアイツの兄貴だから、お前が大切な存在だってアイツが気づくまで、お前に俺らの近くにいてほしい。そのためだったら何でもする」


真っ直ぐに私を見る青柳颯太の目から、視線を逸らせなくなった。
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