サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
────ガチャ
「おはよ。早かったでしょ」
ドアを開けると、向こう側で悪戯な笑みを浮かべていたのは朝比奈さんだった。
今ここにいるのが朝比奈さんであることに胸が高鳴る私。だけど、ほんの少しだけがっかりもした。だって、これじゃあ買い出しには行けない。
冷蔵庫の中にお茶やジュースも入っていないなんて、ひどい干物女だ。なんて思われたらどうしよう……。
いつもは入ってるんだけど……なんて言い訳、通じるかなぁ。
「はい」
「えっ……?」
思考をぐるぐると回転させて、どう対応するかを考えていた私の目の前に一つのレジ袋が浮かんでいた。
その透明な袋の中には、オレンジジュースや軽いお惣菜が入っているのが透けて見える。
「差し入れ」
「……あ、ありがとうございます。気を遣わせてしまって申し訳ないです……でも、助かりました」
「え? 助かったってどういうこと」
「あ!いや……こ、こっちの話です」
「えー? なになに? どういうこと? 凛花ちゃん、その話、僕には教えてくれないんだー」
……あ、拗ねたフリだ。可愛い。
私にも分かるような〝フリ〟をしている朝比奈さんは唇を尖らせながら、部屋の奥へと入って行った。