サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
元彼
私はドアの鍵を閉めるとリビングに入って、ただぼうっと立ち尽くす。
ああ、また、空っぽになった。
朝比奈さんと別れると、胸に穴が開いたような感覚になる。ただただ虚しい。そんな感覚。
「……片付けよう」
後回しにしようかとも思ったけれど、テーブルの上のコップとお皿を先に洗ってしまおうと思った私は、それを持ち上げてシンクへ運んだ。
すると、その時。ピンポーンというインターホンの音が部屋中に響き渡った。
あれ、朝比奈さん忘れ物でもしたかな。
そう思った私は、チラリとリビングを見渡しながら玄関へと移動。
ぱっと見、朝比奈さんの忘れ物なんて無さそうだったけれど、とにかく足早に玄関にやって来た私はドアノブに手を掛けてそれを押し開いた。
「朝比奈さん、何か忘れ物でも……って、あ……」
開いたドアの向こう側にいたのは、朝比奈さんではない。
背は朝比奈さんよりも少し高く、センターでふわりと分けられた黒髪。そして、キリッとした顔立ちの男性。
少し節目だったその男性が、ゆっくりと瞼を開いた。
目が合ったその瞬間、私の胸はこれでもかというほどに大きく跳ねた。