サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「……久しぶりだな。凛花」
「み……深月くん……」
笑って私の事を『凛花』と呼んだ彼は、永岡深月(ながおかみつき)。
────私の、元彼だ。
「どうして、ここにいるの……」
「隣に越してきたから」
「えっ……?」
「挨拶しに行こうかなって思って来てみたら、見覚えのある名字があってまさかと思ったけど、本当に凛花だったから驚いた。でも、それ以上に驚いたのは……」
ふっ、と笑った深月くんが外していた視線をこちらに向ける。真っ直ぐな瞳で私を見た。
緊張と、驚きと、何故だか感じる嫌な予感と、色々な感情が混ざり合って止まらない胸の鼓動が苦しい。
「凛花……お前、不倫してるだろ」
さっきの男と、と言った深月くんの瞳は全てを見透かしたような、冷たくて真っ直ぐな瞳。
「っ……なんで? 大体……そんなの、深月くんには関係ない」
「へえ……言うようになったな」
口角を少し上げて、くすりと笑う彼。
こうやって余裕そうに笑う所、全然前と変わってない。