サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

「あの頃は、俺がいないと何も出来なかったのにな」

「……そんなの、昔のことでしょ。今は違う」


深月くんと私が付き合い始めたのは、今から五年前。

私が20歳で、大学に通っていた頃。その大学の講師をしていたのが深月くん。その頃、彼は28歳だった。

講師として凄く深月くんを慕っていた私は、毎日のように彼の元を訪れては進路やプライベートの相談をしていた。

それまで恋なんてした事がなかったけれど、次第に、深月くんの事を講師としてではなく一人の男性として見るようになってしまった。意を決して告白をすると、意外にもあっさりオッケーを貰え、そのまま私達は三年を恋人として共に過ごした。

その頃の私は、ちゃんと、幸せだった。

幸せだったはずなのに、つい、私の欲が出た。そのせいで、私達は別れてしまった。


「……昔のこと、な」


そうだな、と深月くん。

あの頃から、私よりもずっと大人で、私よりもずっと先を歩いていた深月くん。

元々、愛情表現とか甘い言葉を言ってくれたりとか、そういうのをしてくれる人ではない。

そんなの、最初から分かってた。そのはずなのに、私がそれに耐えられなくなってしまった。


だから、二年前、私から一方的に関係を終わらせた。連絡を絶って、彼の前から消えた。


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