サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
それ以来、ずっと会っていなかったというのに、なんで今更……。
「……挨拶なんていいから、もう帰って」
もう、これ以上深月くんと話していたくなかったし、話す必要もないと思った。さっきのさっきまで忘れていた深月くんと話すことなんてあるはずがない。
だけど、そのはずなのにひどく動揺している私。それを彼に知られたくもなかった。だから、これは正しい選択だ。
「はは、冷たいな。せっかく会えたっていうのに」
「……そう? 今更話すことなんて何もないし、私体調良くないから早く休みたいの」
「そう。分かった。それじゃあ、ゆっくり休んで」
勘が鋭くて、なんだかんだでいつも私の事を気にかけてくれていた深月くんのことだ。きっと、体調が良くないなんて嘘だと見透かしているだろう。
だけど、そんな優しい顔して『ゆっくり休んで』なんて言って笑うんだから、彼は本当にずるい人だ。
「またな。凛花」
そう言って私に背を向けた彼。
どうして彼は、今更私の前に現れたの?
やっと、忘れることが出来て、好きな人だって出来たのに。どうして────。