サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「体調は良くなったか?」
「……まあ、それなりに」
翌日。家を出て近所のスーパーに行くと、野菜売り場のあたりで深月くんとばったり会ってしまった私。
本当になんてタイミングの悪さだ。この時間に、しかも、このスーパーで偶然居合わせるなんて……。
「はは。そうか。それは良かった」
そう笑ってジャガイモを手に取った深月くんは、やはり昨日の私の言葉は嘘だと知っているようだった。
「……嘘だよ」
「え?」
「体調良くないなんて、嘘だって言ってるの」
「はは。うん。知ってる」
ああ、やっぱり。知ってるんじゃない。知ってるなら別にそんな風に知らないふりしなくてもいいのに。
そう思っている私の横で、何故かにこにこと笑っている深月くん。
聞くわけではないけれど、どうしてそんなに笑っているのか不思議に思っていると、そんな私の思考に気づいたのか深月くんが口を開いた。
「凛花、変わらないな」
「え……?」
「そんな小さな嘘、別にそのまま貫けばいいだろ。それをわざわざネタばらしして、謝ってさ。そういう律儀なところ、あの頃と変わってない」