サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
メッセージアプリを開くと、未読のメッセージが一件。私はそれを親指でタッチして開いた。
《これから、会える?》
一言だけの、簡単なメッセージ。
そのメッセージに私は頬を緩ませると、一つにまとめていた長い黒髪を解き、歩き出した。
会社前に偶然止まっていたタクシーに乗り込み、栄えた街から少し離れた場所にあるホテルに向かう。
約十分くらいタクシーに乗っていた私は、お金を支払うと急いでタクシーから降りる。そして、ホテルの中に入った。
タクシーで移動している間に来ていた一件のメッセージを見た。そこには《302号室》と書かれている。
スマートフォンをカバンの中に放り、フロントの受付を通して302号室へと向かった。
軽い足取りでやって来た302号室。扉の取っ手部分に手をかけると鍵は開いていて、その手を引けば簡単に開いた。
「……朝比奈さん」
「来てくれたんだね。仕事、お疲れ様」
部屋の奥へと入ると、そこにいたのは同じ会社に勤めている上司、朝比奈明(あさひなあきら)
少し癖のあるふわふわとした栗色の髪に、整った顔。そして、スマートな身体はとてもじゃないけれど30歳には見えない。