サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
隣で、懐かしそうに、柔らかく微笑む深月くん。その笑顔に少しだけ胸がきゅっと締め付けられる。
「今日、肉じゃが?」
「えっ……あ、うん。そうだよ」
突然私の持つ買い物かごを覗き込んだ深月くんが、私の今日の晩御飯を見事当てて見せた。
ジャガイモに、牛肉、玉ねぎの入ったかご。一見、カレーの材料に見えなくもないこの材料たちで見事当てた深月くん。
彼が当てられたのはきっと、彼が、私の得意料理は肉じゃがであることを知っているから。
そして
「凛花の肉じゃが、うまいもんな」
彼は、私の作る肉じゃがをいつも美味しそうに食べていたから。
「……ありがとう」
「いいえ」
あまりにも自然に褒められ、正直、リアクションに困った。だけど、嬉しくて、私の口角はくいっと上がってしまった。
「レジ並ぶか」
「うん」
出来ることなら一秒でも早く深月くんと離れないと。
そう思っているのに、私は流されるかのように首を縦に振ってしまった。