サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
私たちの住むアパートまで、約五分。
特に会話を続けるわけでもなく、かと言って、会話を全くしないわけでもない。そんな感じで私達はアパートまで二人並んで歩いて来た。
「それじゃあな」
「……うん」
いつものように笑って、私の隣の部屋の扉を開けた深月くん。
あまりにもあっさり帰ろうとする深月くんを見ていた私は、無意識のうちに口を開いた。
「み……深月くん!」
「ん? なに? どうした」
開きかけのドアを手で支えたまま、こちらを見た深月くん。
本当に無意識のうちに声に出して彼を呼んでしまった。なにやってんだろう、私ってば。
「えっと……肉じゃが、良かったら食べていかない……?」
目をくるりと見開いた深月くん。余程私の一言に驚いたのだろう。
「はは。新しいな、その誘い文句」
「なっ!別にそういうつもりじゃ……」
「バカ、分かってる。凛花、そういうピュアなとこも変わってないのな」
じゃあ、お言葉に甘えるよ。と言って彼が自分の部屋のドアを閉めた。